谷口 寛俊、勇気さん

宮崎の伝統野菜を、自分たちの代で
絶やすわけにはいかないです。
農業人としての使命と考えつくっています。 谷口 寛俊、勇気さん

もともとは地元の高齢農家支援で
はじまった「百姓隊」

──まずは、「百姓隊」について、結成の経緯から現在に至るまでを教えていただけますか。

「もともとは、2001年ごろ、地域の70代、80代の高齢農家の人たちの支援を目的につくったものなんです。自分でつくったものを軒先に並べ、お金は缶の中へと書いて無人販売している人が多かったのですが、実際にはお金を入れずに持っていかれるケースが多かったので、これはいかん、と。誰かが集荷し、人を置いて有人販売にしようということになり、当時いちばん若かった私が受け皿的窓口を立ち上げました。それが百姓隊の始まりです。直売所を道路際につくったら、地元スーパーのバイヤーさんが見に来て、『これ、スーパーの中で販売しないか?』という話になった。試しにやってみたら、もともと集客のあるところでしたから、顔の見える野菜は非常に売れまして。最盛期は20店舗くらいに置いていました。ただ、その後、後発で似たようなものが出てきて売上げが横ばいになり、今度は商品が余るように。再び、これじゃいかんと。県庁の農林水産部に相談したら、産業支援をするところを紹介され、そこで『もっと名前を広めるためのブランド戦略、ブランディングをしないと』ということになったんですね。そこから、プロのカメラマンやデザイナーを県の行政担当者が集めてくれましてね。結局、宮崎で農業は基幹産業だから、新しい農業の形を見せないといけないということで、百姓隊をロールモデルに選んでもらったんです。それでできあがったのが、現在のヴィジュアルイメージです。でき上がって公開されると、効果がものすごく出ましてね。アマゾンのショッピングモールでも、うちの野菜セットが1年半くらいずっと1位を独走するほどで。それで、マスコミにも大きく取り上げてもらうことになりました。そのお陰で、大手百貨店さんでも名前を知っていてくださって、今でも先方から挨拶にきてくださるところも多いんです」

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焼きなす日本一に選ばれた
宮崎の伝統野菜「佐土原なす」

──谷口さんご自身は、宮崎に伝わる伝統野菜をつくられているんですよね。

はい、これはもう農業人としての私の使命だと思って取り組んでいます。宮崎には佐土原ナスとか糸巻き大根とか、江戸時代の前くらいから400年近くに渡りつくり続けられてきた伝統野菜があるんです。将来的には絶滅してしまうかもしれないけれど、ただ、僕らの時代で絶やすことはできんなあと思って取り組んでいます。佐土原ナスは江戸時代、鹿児島の薩摩藩の島津さんが宮崎の佐土原に領地をもっていてそこの農民にどんどんつくりなさいって奨励した作物。焼きなす日本一に選ばれるほど食味がよくおいしいのですが、色が薄いんですよ。今の茄子とくらべると色的に見劣りする。それだけの理由で、売れないんです。売れないから徐々に生産者が減っていき、最後の生産者が農業試験場に種を預けてから10年間、佐土原なすは世の中から消えていました。それを、種を譲り受けてきて復活させたんです。糸巻き大根や原種の小松菜にしても、みんな味が濃くて、個性があり、とてもおいしいです。調理法などは小冊子にまとめて、地元で行う勉強会、講演会などで参加者に配布しています。ただ、こういった野菜は、やはり都会向きですね。都会のほうがいろいろな野菜に果敢にチャレンジする料理人の方が多いようです。これから都会で販路をみつけてどんどん売っていきたいですね。

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宮崎から日本の農業を変えていくことが、私の夢

──これからの日本の農家像について考えをお聞かせいただけますか。

これからの農業は、間違いなく担い手、作り手が少なくなるので、農家は規模拡大が大前提になります。ですから、IoTをつかって規模拡大をきちんとやり、生産量を確保して、こういうFresh Firstのような仕組みをうまく利用しながら自分たちで売っていくことを考えないといけない。いわゆるインテリ農家というんでしょうか。川上から川下まで全部トータルでいけるようなシステムを構築して農業をやる人たちが表にどんどん出てこないと、日本の農業は疲弊していってしまいます。全国のやる気のある若手農家とNTTドコモさんのようなシステムや技術力を持っている会社が提携してやっていくことが、これからの日本の農業には必要だと思いますね。私自身も、そういう農業観のある若者に会ったら、声をかけて一緒に生産・販売をやっていこうと声をかけています。私の夢はね、宮崎県を、アメリカのシリコンバレーならぬ、日本の農業バレーと呼ばれるようにしていくことです。日本で農業をやるならまずは宮崎に行かないと、という土地にしていきたい。生産から加工販売まで、時代をリードする組織をつくりあげて、宮崎に日本で農業を志す若者を呼び込むような存在にしたいのです。NTTドコモの技術とともに、生産、加工、販売のすべての面で、宮崎から農業を変えていけたら──そんな志を持って我々『百姓隊』は日々農業に向き合っています。

300~400年前の農業と未来の農業に懸け橋をかけること、そして、日本の農業を守り、宮崎の農業発展させていくことに全身全霊で取り組む谷口さん。口調は穏やかながら、その姿は、まさに“志士”と呼ぶにふさわしい矜持と信念に満ち満ちています。

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profile

谷口 寛俊、勇気

栽培品目:佐土原なす

宮崎県の伝統野菜の復刻を目指して、栽培・販売を行っています。焼きなす日本一に選ばれた佐土原なすは、大きくてみずみずしく、焼くとトロトロに。糸巻き大根は、文字通り意図でまいたような横筋はいっているのが特徴。煮崩れしにくく、糖度が高く辛味が少ないため、食べやすい。原種の小松菜は、茎が流通している小松菜よりも細く柔らかく、葉が黄緑色をしているのが特徴です。