伊藤 英治さん

このきゅうりさえあれば十分という、
きゅうり本来の香りがしっかりとする
味の濃いきゅうりを目指しています。 伊藤 英治さん

きゅうり本来のえぐみや青臭さは、
他の食材のうまみを引き立てる

若ききゅうり農家の伊藤英治さんがハウスを構えるのは、宮崎県児湯(こゆ)郡にある新富町。宮崎平野における代表的な野菜の産地であるこの新富町では、平成29年4月に、町が“こゆ財団”(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構)という地域商社を設立し、“100年先まで持続可能な地域とするための強い地域経済をつくる”ことをミッションに、さまざまな活動への取り組みを始めています。そこで自分と同じ30代のきゅうり農家ふたりに出会った伊藤さんは、同士3人で“きゅうりラボ”を結成。講師陣の指導のもと、クラウドファンディングを実施して、放棄耕作地を活用しながら「伝統野菜のきゅうり」を栽培するプロジェクトを立ち上げました。きゅうりをデザインしたオリジナルTシャツを着て、爽やかな笑顔で現れた伊藤さんに、話をうかがいました。

──そもそもなぜ、きゅうりを専門に作ることになったのですか。

「僕は、宮崎の高校を卒業した後、愛知県で6年くらい働いていたのですが、24歳のときに、ちょっとリセットというのか、一度故郷の宮崎に戻ろうと思いまして。地元で何をしようか迷っていたときに、うちの母親がパートで通っていた知り合いのきゅうり農家さんから、“一度やってみるか”と声をかけられたんです。やってみるとおもしろくて、その奥深さにすっかりはまってしまいました。その後2年間の研修期間を経て独立し、今6年目を迎えています。きゅうりといえば、野菜の中でも添え物の印象がありますよね。でも、僕はその状況を打破して、きゅうり本来の香りがしっかりする、味の濃い、瓜らしい、このきゅうりだけで十分という味を目指しています。きゅうり独特のえぐみとか青臭さって、ほかの食材と合わさることでうまみを引き立てるんです。その濃い味を出すには、やはり最初の土づくりが肝心です。化学肥料だけだとそうはならないので、しっかり有機物も入れて、微生物やアミノ酸などもうまく使いながら、つねによい土の状態を保つ。そうすることで、甘味が強くなるし、香りも変わってきます。そのあたりにはこだわりを持って栽培にあたっています」

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きゅうりラボがチャレンジする
伝統きゅうり栽培

──きゅうりラボのほうではどのような活動を?

よく先輩農家さんたちから『昔のきゅうりはおいしかった』と聞くけど僕ら食べたことがないよね、という話になったのがそもそものきっかけでした。今現在はまだ、この地域で昔栽培されていたきゅうりの種には行きついていないのですが、手始めに、日本全国の伝統野菜としてのきゅうりや珍しい種類のきゅうりを栽培してみようということで、耕作放棄地活用を絡めながらクラウドファンディングに挑戦したんです。で、目標の50万円がギリギリでしたが無事に集まりまして、今は、メロンきゅうり、レモンきゅうり、相模半白きゅうり、大和三尺きゅうり、モウイ(赤瓜)などを育てています。ただ、この寒さもあって、なかなか実が太ってくれないのが悩みの種です。大量生産・大量消費の流れからはずれていったものが多く、正直にいってなかなか栽培するのが難しい印象はあります。収穫にはあと1週間、2週間かかるかな。形はさまざまで、すごく個性的ですよ。3人で採って食べるのを心待ちにしている状態です。

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自分たちのつくった場が、
地域のネットワークを生みだす幸せ

──きゅうりラボがきっかけとなって地元でのつながりも広がっているそうですね。

そうなんです。農家の先輩方から、『こうしてみたら?』なんていう助言を思いがけずいただくことが増えて。とてもうれしいですね。若い3人のきゅうり農家が、ああでもない、こうでもないといいながら切磋琢磨する場をつくったら、まわりのきゅうり農家の方も自然と集まってくてくれる。そういう環境があるのは本当に素敵なことだと思います。でも、ただつくっているだけでは意味がないので、きゅうりをつくり、それを売って、そのお金で次の投資をするという形をつくらないと、結局僕らのつくった伝統野菜も消えていってしまうと思うので、なんとか継続するビジネスモデルを試行錯誤を重ねながら構築していきたいと思っています」

きゅうりと地域に関する物語を、終始爽やかな笑顔で、とても愛情深く話してくれた伊藤さん。濃い味と香りが自慢の伊藤さんのブルームレスきゅうりを味わいながら、きゅうりラボが手掛ける伝統きゅうりの味わいに想い巡らせてみるだけで、気持ちが弾んできそうです。

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profile

伊藤 英治

栽培品目:きゅうり

種類は一般に流通している「ブルームレスきゅうり」(白い粉のふかない緑色のきゅうり)ですが、「土づくりにはこだわっているので、きゅうりならではの味と香りを楽しんでもらえると思います」と伊藤さん。「土壌にしっかりとした肥料を入れてきちんとした体力を保つと、充実した結果が出るんです。人間と同じなんですよね」。伝統きゅうりについても、ゆくゆくは出荷できるようにしていくことを目指します。